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腎移植 |
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腎移植とは?
腎移植とは末期腎不全の人に対する腎代替療法の一つです。腎代替療法としては、その他に血液透析、腹膜透析があります。それぞれ利点欠点があり、それらを考慮し治療法を選択します。
腎移植には更に生体腎移植と献腎(脳死、死体)移植があります。生体腎移植は親族、家族などの健常者から2つある腎臓の片方を提供していただき移植する方法です。献腎移植は亡くなった方から腎臓を提供していただき移植する方法です。献腎移植には心停止下と脳死下の移植があります。献腎移植を受けるためには、事前に日本臓器移植ネットワークに登録しておく必要があります。 |
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腎移植の利点、欠点について
血液透析、腹膜透析と比較しての利点は時間的拘束が少ないことと生命予後の改善です。一般に血液透析の場合、1回4時間から5時間の治療を週3回受ける必要があります。在宅腹膜透析も毎日施行する必要があります。腎移植では安定期では月1回程度の通院治療が可能です。また透析では正常腎の約10分の1程度の役割しかありませんが、移植では正常に近いレベルまで改善します。したがって透析時と比較し、水分制限や食事制限が軽くなります。また一般的に血液透析は健常人と比較して生命予後は半分しかないと言われています。しかし、腎移植後106日を経過すると、血液透析と比べて生命予後は有意に改善すると言われています。
しかし、移植にも欠点があります。まず、移植には腎臓提供者(ドナー)が必要です。現在、本邦では献腎移植ドナー不足は著しく、多くは生体腎移植で行われているのが現状です。また、ドナーが見つかったとしても、他人の腎臓を移植するため、拒絶反応を抑制するため免疫抑制剤の内服が必要です。これは一生涯内服を継続しなければなりません。免疫抑制が十分でない場合には拒絶反応が起こりやすくなります。また免疫抑制下では感染症に注意が必要です。免疫抑制剤の副作用として糖尿病、高血圧などの可能性もあります。また移植した腎臓が一生機能するわけではありません。移植した腎臓の機能が低下した場合には透析治療に変更する必要があります。また、当然ですが移植術という大きな手術を受けなくてはなりません。他の手術とも同様ですが麻酔のリスクや術後の合併症のリスクもあります。
腎移植の方法について
移植腎は通常右の下腹部の骨盤の中に移植します。提供者(ドナー)の腎臓の動脈と患者(レシピエント)の内腸骨動脈(または外腸骨動脈)を吻合します。またドナーの腎静脈はレシピエントの外腸骨静脈に吻合します。ドナーの尿管はレシピエントの膀胱に直接つなぎます。レシピエントの本来の腎臓は一般には摘出せずにそのままにしておきます。自己腎に多くの嚢胞があり、移植腎の妨げになる場合や感染症がある場合などには摘出することもあります。 |
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免疫抑制剤について
人間の体には本来の自分以外の物、すなわち異物が侵入してきた場合、これを排除しようとするシステムが働きます.これを免疫といいます。移植された腎臓も結局は他人のものですので、レシピエントの体は腎臓を排除しようとします。これが拒絶反応です。この拒絶反応を抑える為に免疫抑制剤という薬を使用します。一般的には数種類の薬を併用して使用します。免疫抑制剤は使用しすぎると感染症の危険性が増加し、副作用の出現のリスクが増えます.しかし、少なすぎる場合には拒絶反応を起こす為、調節が必要となります。しばらくたつと拒絶反応のリスクは減少してきますので免疫抑制剤は減量が可能です。しかし移植腎が機能している限りは中止することは出来ません。このように薬の副作用を抑えつつ、十分な免疫抑制の効果を得るため定期的な外来通院が必要となります。
腎移植の実績
腎移植件数は年々増加傾向にあり、2020年の症例数は1711例であり、生体腎移植1570例、献腎移植141例(心停止17例、脳死124例)でした。2010年の改正臓器移植法施行後より本人の書面による臓器提供の意思表示がなくても、家族の承諾により脳死下臓器提供する症例が増加しており、献腎移植は2013年に初めて脳死の症例数が心停止の症例数を上回りました。しかし、献腎移植希望登録者数は全国で約12,000名に対して献腎移植数は1年間で160〜180例前後、因みに2020年における九州沖縄エリアでの献腎移植数は22例と依然、献腎ドナー不足は厳しい状況が続いています。 |
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表 最近10 年の腎移植実施症例 |
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西暦 |
生体腎 |
献腎(心停止) |
献腎(脳死) |
合計 |
2012 |
1,420 |
116 |
77 |
1613 |
2013 |
1,438 |
67 |
88 |
1593 |
2014 |
1,479 |
42 |
85 |
1606 |
2015 |
1,503 |
63 |
104 |
1670 |
2016 |
1,471 |
61 |
116 |
1648 |
2017 |
1,544 |
65 |
133 |
1742 |
2018 |
1,683 |
55 |
127 |
1865 |
2019 |
1,827 |
54 |
176 |
2057 |
2020 |
1,570 |
17 |
124 |
1711 |
2021 |
1,648 |
19 |
106 |
1773 |
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腎移植臨床登録集計報告(2022)2021年実施症例の集計報告と追跡調査結果
移植 Vol. 56 (2022) No. 3 p. 199-219 |
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腎移植の成績
腎移植されたかたの生存率は、生体腎移植では1年で99.2%、5年で96.7%、10年で91.0%、献腎移植ではそれぞれ97.8%、92.9%、82.9%です。
また、腎移植の生着率(移植した腎臓が機能している確率)は生体腎移植では1年で98.7%、5年で93.1%、10年で80.8%、献腎移植ではそれぞれ96.1%、87.9%、74.5%です。生存率も生着率も年々良くなっています。しかし、近年は高齢者や糖尿病性腎症などのハイリスクな腎移植が増えてきており、生着率の成績はやや下がり気味です。また、血液型が違っても腎移植は可能です。2013年までで、腎移植では2,500例以上の血液型不適合腎移植がおこなわれており、移植の成績も血液型が一致している組み合わせと比較しても同等の成績です。 |
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表 年代別生存率・生着率 |
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解析症例数 |
1年 |
5年 |
10年 |
15年 |
【生存率(%)】生体腎 |
1983〜2000年 |
7,538 |
97.1[0.2] |
93.6[0.3] |
88.9[0.4] |
84.4[0.4] |
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2001〜2009年 |
7,004 |
98.3[0.2] |
96.0[0.2] |
92.0[0.4] |
86.3[0.6] |
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2010〜2019年 |
11,156 |
99.2[0.1] |
96.7[0.2] |
91.0[0.7] |
― |
献腎 |
1983〜2000年 |
2,829 |
92.6[0.5] |
86.0[0.7] |
79.0[0.8] |
71.1[0.9] |
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2001〜2009年 |
1,345 |
96.0[0.5] |
89.3[0.9] |
81.1[1.2] |
69.3[1.7] |
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2010〜2019年 |
1,379 |
97.8[0.4] |
92.9[0.8] |
82.9[2.1] |
― |
【生存率(%)】生体腎 |
1983〜2000年 |
5,593 |
93.0[0.3] |
81.9[0.5] |
69.0[0.6] |
59.1[0.7] |
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2001〜2009年 |
6,373 |
97.5[0.2] |
93.2[0.3] |
83.7[0.5] |
70.5[0.8] |
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2010〜2019年 |
10,574 |
98.7[0.1] |
93.1[0.3] |
80.8[1.0] |
― |
献腎 |
1983〜2000年 |
2,288 |
81.6[0.8] |
64.8[1.0] |
51.9[1.1] |
42.4[1.1] |
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2001〜2009年 |
1,202 |
92.7[0.8] |
83.3[1.1] |
69.8[1.4] |
53.6[1.9] |
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2010〜2019年 |
1,310 |
96.1[0.5] |
87.9[1.1] |
74.5[2.3] |
― |
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※[ ]内は標準誤差を表す |
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腎移植臨床登録集計報告(2021)2020年実施症例の集計報告と追跡調査結果
移植 Vol. 56 (2021) No. 3 p. 195-216 |
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2023年9月更新 |
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