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膀胱がん
1.膀胱と膀胱がん

 膀胱は下腹部(骨盤内)に位置する臓器です。膀胱の機能は、尿を溜めることと、尿を排出する役割があります。腎臓で作られた尿が尿管を通って膀胱に溜められます。尿がある一定以上に溜まると尿意(尿をしたい感覚)を生じ、膀胱の筋肉が収縮することにより排尿します。
 膀胱の内側は尿路上皮という粘膜で覆われており、この尿路上皮ががん化したものを膀胱がんといいます。組織学的には膀胱がんの約90%が尿路上皮がんという種類ですが、まれに扁平上皮がんや腺がんの場合もあります。

2.頻度

 毎年人口10万人あたり約16人が新たに膀胱がんと診断されており、2016年に膀胱がんと診断された数は23422人(男性17719人、女性 5703人)と報告されています。
膀胱がんの発症は、男女とも60歳代から多くなり、40歳未満は少ない傾向があります。また、男性のほうが女性よりも約4倍罹患率が高い傾向があります。

3.原因

 膀胱がんの原因として、喫煙が最も重要で、現在喫煙している人は吸わない人に比べ4倍、過去に喫煙した人は2.3倍膀胱がんになりやすいことが分かっています。タバコの煙の発がん物質が、全身を回った後、濃縮されて尿中に排泄され、膀胱の粘膜が慢性的に発がん物質を接触してがんが発生すると考えられています。現在の膀胱がんの患者の約半数は、喫煙が原因であるという統計結果もでており、禁煙が膀胱がんの予防に最も大切です。

4.主な症状

 初発症状で最も多いのが無症状の肉眼的血尿です。何の前ぶれもなく「突然血尿」が出現します。その後数日で自然に血尿は消失しますが、再び血尿が出現します。それを繰り返していくうちに血液の塊により尿道を閉塞して尿を出そうと思っても出なくなることがあります。 その他には頻尿(頻回にトイレに行く)や排尿時の痛みなどが見られることもあります。抗生剤を服用してもなかなか症状が軽快しなかったり、頻回に再発する場合は注意が必要です。

5.診断

1)腹部超音波(エコー)検査

 血尿の原因としては膀胱癌以外にも尿路結石や炎症性疾患などが挙げられます。まず、最初に腹部超音波検査で大まかな疾患の鑑別を行います。患者さんへの負担もなく簡便に行えます。
腹部超音波検査
2)尿細胞診

 尿の中には尿路上皮などの剥がれた細胞が含まれています。その細胞の変化を観察することにより、癌や炎症性疾患を検査することができます。採尿のみで検査が行えるため、患者さんへの負担はありません。結果はClassT〜Xの5段階で評価します。ClassT,Uは陰性、ClassVは疑陽性、ClassW,Xは悪性(がん)が強く疑われます。しかし、尿細胞診が陰性だからといって、必ずしも膀胱がんがないとは言い切れません。他の検査と併せて総合的に評価をします。

3)膀胱鏡

 
最も大事な検査は膀胱鏡検査です。尿道から細い内視鏡を挿入して膀胱の中を直接観察します。がんの有無や場所・形態・サイズを観察します。
 膀胱がんは形態によって乳頭型、結節型、平坦型に分類されます。乳頭型は早期がん(筋層非浸潤性膀胱がん)で多くみられ、膀胱がんの約70%を占めます。がんの浸潤・転移の可能性が低く、がんの顔つきがおとなしい(悪性度が低い)場合が多いです。一方で結節型は、進行がん(筋層浸潤性膀胱がん)で多くみられ、がんの浸潤・転移の可能性が高く、がんの顔つきが悪い(悪性度が高い)場合が多いです。また、平坦型は、膀胱の表面に隆起せず、粘膜に沿って顔つきの悪い(悪性度が高い)がん細胞がばらまかれた状態になっている上皮内がんで多くみられます。膀胱鏡で上皮内がんは、正常な膀胱粘膜と見分けがつかないこともあるため注意が必要です。上皮内がんの浸潤は膀胱粘膜内に留まりますが、がんの顔つきが悪い(悪性度が高い)ため、後に進展・転移へと進行する可能性が高くなります。
4)CT検査、MRI検査

 
CT検査は他の臓器への転移やリンパ節転移の診断に有用であり、MRI検査は、膀胱がんの浸潤の深さ(深達度)や周辺の臓器への膀胱がんの広がりを評価するのに有用です
CT検査(体軸断)   MRI検査(矢状断)
5)経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)

 膀胱がんの確定診断のために全身あるいは腰椎麻酔下に尿道から内視鏡(ファイバースコープ)を挿入し、膀胱内の病変を切除します。切除した組織を顕微鏡でみてがんの種類や浸潤の深さ(深達度)を診断します。早期がん(筋層非浸潤性膀胱がん)の場合はTURBTでがんを完全に切除できる可能性があり、治療と診断を兼ねた検査になります。
  経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)   膀胱がんの深達度
※泌尿器Care&Cure Uro-Lo.21(4),2016,36-9.
泌尿器Care&Cure Uro-Lo.23(2),2018,51-5.より引用
膀胱がん診断の流れ
6.病期(ステージ)

 膀胱がんは、@原発巣の深達度(T)、Aリンパ節に転移がないか(N)、B他の臓器に転移がないか(M)の3つの評価を行い病期を決定します。ここでは、国際的に用いられているTNM分類を簡単に解説します。
※日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 2021年4月(第2版)」(金原出版)より作成
7.治療

膀胱がんの治療には、主に手術療法、放射線療法、薬物療法があります。
また、膀胱がんの病期(ステージ)によって、治療法が異なります。
膀胱がんの病期(ステージ)と治療法
※膀胱温存療法(条件を満たした場合に検討)
1)ステージ0a期、I期の膀胱がん(筋層非浸潤性膀胱がん)

A)経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)
 先程述べました通り、表在がんの場合にはこの手術が治療となります。通常、腰椎麻酔を行って尿道から内視鏡を挿入して電気メスでがんを切除して取り除きます。手術時間は1時間から1時間半程度です。また、最終的に切除したがん組織を顕微鏡で観察します。筋層への浸潤の有無や悪性度を評価し、この結果より追加治療の必要性を検討します。また、現在、光力学診断(photodynamic diagnosis : PDD)や狭帯域光観察(narrow band imaging : NBI)などの技術を用いることで正確な腫瘍の局在を術中にリアルタイムに可視化し、より精度の高い正確な診断や手術が可能となっています。

B) 膀胱内薬剤注入療法
 筋層非浸潤性膀胱がんが多発している場合や上皮内がん(T分類のTis)などに対してはTURBT後に再発予防として抗がん剤やBCG※などの薬剤を膀胱内に注入して治療します。外来で週に1〜2回行います。
※BCGとは、結核菌の毒力を弱めた製剤で、結核の予防ワクチン“BCG”と同じものです。これを膀胱内にいれると膀胱の免疫反応に働いて膀胱がん細胞を破壊します。

2)ステージII期、III期の膀胱がん(筋層浸潤性膀胱がん)

A)膀胱全摘除術+尿路変向術
 がんが筋層まで浸潤している場合は、がんの進展、転移のリスクが非常に高いため、膀胱を摘出する膀胱全摘除術が標準的な治療となります。併せてリンパ節切除を行い、男性では前立腺、精嚢を、女性では膣前壁と子宮を摘出するのが一般的です。近年では、手術の侵襲を低減するため、腹腔鏡下やロボット支援下に行う施設も増えてきています。男性では術後に勃起不全になる可能性が高いのですが、術式によってはそれを防ぐ方法が試み始められています。ただし、前立腺、精嚢を取ってしまうため、射精はできなくなります。膀胱を摘出した後は尿を溜めておくことができなくなるため、何らかの尿路の再建が必要となります。これを尿路変向術と言いますが、大きく分けて3つの方法があり、病態により3つの方法を使い分けます。
膀胱全摘術切除範囲(男女別)
尿路変更術の種類
※泌尿器Care&Cure Uro-Lo.23(3),2018,36-9.より引用
B)放射線療法
 膀胱がんは、放射線療法に比較的感受性があり、膀胱全摘除術の補助的治療や摘出困難症例に対して行います。また膀胱温存目的に化学療法と併用して行われることもあります。化学療法と併用するとさらに感受性が高くなりより効果がみられます。副作用として皮膚のただれ、膀胱の萎縮、直腸からの出血などが生じることがあります。また、転移により痛みが生じている時には緩和目的でも行います。

3)ステージIV期の膀胱がん(転移性膀胱がん)

A)抗がん剤による化学療法
 転移のある進行した膀胱がん(ステージW期)は化学療法の対象となります。治療は複数の抗がん剤を組み合わせて行い、4種類の抗がん剤(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシンあるいはその誘導体、シスプラチン)を使用するMVAC療法や2種類の抗がん剤(ゲムシタビン+シスプラチン)を使用するGC療法があります。GC療法の方がMVAC療法と比較して抗がん剤の副作用が少ないため、現在はGC療法が主に選択されています。しかし、いずれの治療においても治療中の副作用として、吐き気、食欲不振、白血球減少、貧血、口内炎などがおきます。また、転移がない筋層浸潤性膀胱がんでも術後の再発や遠隔転移の予防のため、術前または術後に化学療法を追加することがあります。
各治療法の抗がん剤の投与スケジュール
※各治療とも28日を1つの治療期間(1クール)とする
B)免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法
 人間の体には、自身の免疫が自分自身を傷つけないようその働きにブレーキをかける機能が備わっています。その機能の一つが免疫チェックポイントです。がん細胞はこの機能を利用し、免疫の働きにブレーキをかけ、免疫細胞の攻撃から逃れています。 免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞によるブレーキを外すことで免疫機能を活性化させ、自身の免疫によりがん細胞を攻撃することを狙った薬剤です。免疫チェックポイント阻害薬は、抗がん剤投与後に進行した膀胱がんに対して投与される薬剤です。抗がん剤投与後に進行した膀胱がんはペムブロリズマブ(キイトルーダ)が投与されます。抗がん剤により一定の効果が得られた膀胱がんには、アベルマブ(バベンチオ)により維持療法をします。また、手術により摘除された膀胱がんの補助治療としてはニボルマブ(オプチーボ)が投与されます。これらのがん免疫療法は、がん細胞によって抑えられていた免疫機能を再び活性化させる薬剤であるため、逆に免疫が働きすぎることによりがん細胞以外の全身の臓器に副作用が出現することがあるため注意が必要です。
C)抗体薬物複合体
 エンホルツマブベドチン(パドセブ)は尿路上皮がん細胞にある「ネクチン-4」を認識して結合し、がん細胞内に取り込まれ、抗がん剤の抗がん剤のモノメチルアウリスタチンE(MMAE)が遊離されます。そしてMMAEは微小管(チューブリン)を阻害し、強力な抗腫瘍活性を持つ抗がん剤です。尿路上皮がん細胞を特異的に認識する抗体であるエンホルツマブに、抗がん剤のMMAEを結合させることで、抗がん剤ががん細胞のみに作用するよう工夫した薬剤です。皮膚障害、神経障害、味覚障害、高血糖などの副作用に注意が必要です。
8.治療後の通院について

膀胱がんは膀胱がある限り、膀胱内に何度も再発する可能性があります。経尿道的膀胱腫瘍切除術後は、定期的に外来に通院し、検査を受けて下さい。膀胱を摘出した場合には、再発や遠隔転移が出現しないかを定期的に検査を受けることに加えて、回腸導管や腸管で作られた新膀胱がきちんと機能しているか、腎機能の状態や形態の変化などのチェックも必要です。
参考文献: 新泌尿器科科学、改訂4版:九州大学教授 内藤誠二 編
  膀胱癌診療ガイドライン 2019年版
2024年9月更新
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